注意:JI・GO!



トゥーリアンの指が、その先の鋭い指先を使わぬように撫でる。

己の生まれ持った凶器が、ヒューマンの柔らかい皮膚を裂かないように。

己の手で付けた過ちを更に傷つけないように。


「気になる?」

「ええ、すみません…毎度意識はしているのですが」


軟膏はあっちでしたっけ、とモーディン処方の薬を取りにギャレスはベッドから立ち上がろうとした。

しかしシェパードに遮られる。


「これくらいならいいわ。すぐ塞がるでしょうし」

「しかし…痕が残るでしょう。ほら、ここも軟膏を塗らないから。目立ちますよ」


ギャレスが、戦闘ではまず考えられない位置に付いたシェパードの古傷をそっと撫でる。

青い目は申し訳なさそうに細められている。


「確かに、初めて爪を立てられたときは怒鳴りそうになったわ」

「…すみません」

「でもね?私より驚く貴方が可笑しくて、怒ってることなんて忘れちゃった」


小さく思い出し笑いをしながら、シェパードは固い三本指の手に自分の掌を重ねる。


「それと、だんだん優しくなってきてるのよ」

「まるで乱暴だったみたいな言い方ですが」

「あら、最初の頃は結構痛かったわよ。ぎりぎり軟膏で塞がるくらいだったわね」

「う…」


うなだれるギャレスにまたシェパードが笑う。

いつだって彼は彼女に敵わない。


「爪が立たなくなってきたし、傷も深くもなくなってきた。そしたらなんだかこの傷も貴重だと思えるようになってきたの」

「私にはただの痛々しい傷にしか見えませんが…」

「あら、私にとっては愛するトゥーリアンの愛の証よ」

「…複雑ですね」

「素直に喜んだらいいのに」


挑戦的な笑みで上目を使うシェパードに、ギャレスは視線を迷わせて頬をかく。

そしておもむろに別の痕に触れると、ぽつりとこぼし始めた。


「ずっと後ろめたい気持ちだったんです。貴女を愛する心は本物なのに、この数多の傷は私の手によるものだ。…背徳感がそそったことも事実ですが」

「正直ね」

「でも、貴女がそう受け止めていてくれたなら、少しだけ心が晴れますよ。ありがとうございます、シェパード」


トゥーリアン独特の唇が彼女の柔らかい額に軽く触れ、それに応えるように彼の頬へヒューマンの柔らかい掌が添えられた。


「少しは引っ掻いちゃってもいいのよ?」

「いえ、目指すは貴女に無傷で朝を迎えさせることです」

「あら、それは寂しいわね。ひょっとしたら誰と夜を共にしたのか忘れてしまうかも」

「…訂正します。無意識でつけた傷がないように目指しますよ」

「それがいいわ」


満足そうなヒューマンと心のつかえが取れたトゥーリアンと、額を寄せ合って二人笑った。