シェパードひとりが住むにはあまりにも広い部屋の隅で、パーティの最中だというのに独りでガラスを見つめる男がいた。

といっても、単に植木と部屋を仕切るガラスに見惚れているわけではなく、何か考えているようだ。

その真剣な顔は、部屋に流れる音楽や笑い声とは不釣り合いと言う他ない。


『マイクロフィラメントがその答えだ』

「そうか…」


しかも、戦闘中でもないのに無線を使っているようだ。

相手のしわがれた声は、かつて地獄へと共に乗り込み、そして生きて帰ってきた戦友ザイード・マッサーニのものだった。



美味しい酒を楽しんで、少し酔いが回っているシェパードは恋人の行動に首をかしげた。

彼女の恋人、ギャレスはシェパードに気がつかないまま無線で会話を続ける。


『細ければ細いほどいい。気づかれないからな』

「そうだな、縦横に5本ぐらいの格子で十分な威力になるだろう」

『はは、十分どころじゃないな』


物騒な会話になにやら嫌な予感がしたシェパードはギャレスに声をかける。


「ねえ、ギャレス、いったい何をやってるの?」

「うん?ああいや、何でもありません。ガラスが綺麗に磨かれてると思って」


聞かれていると思わなかったのか、少し慌ててギャレスが弁解した。


『よし、ごまかせ。どうせ言っても理解できないからな』

「…言って?」


が、シェパードの命令で説明を求められる。


「あー、何というか…ガラスを家の装飾に使う奴がいれば、爆発させて敵を仕留めるのに使う奴もいるってことです」

『おい。…厄介なことになったな』


なるほどね、とシェパードは腕を組む。


パーティを開く前、銀河の英雄であるシェパードのクローンが現れて騒動を起こした。

だから次に同じことがないよう、防衛システムの導入を考えていてくれたらしい。家主には無許可で。

しかも良く言えば戦いのエキスパート、悪く言えば戦闘バカな2人の案なので内容はかなり過激だ。

むしろ防衛というより敵を迎え撃つことしか考えていない気がして、シェパードはため息をつく。

マンション改造計画を止められると思ったのか、ギャレスが説得を試みた。


「シェパード…愛しい人。愚かな恋人を許してください、貴女の安全を守りたいんです…」

「…ふふっ…わかったわハニー。好きにして」

『おいおい…そういうのは二人きりでやってくれよな』


お互い歩み寄りはじめた頃に比べたらだいぶ言うようになったギャレスに、シェパードの頬が緩む。

しかし会話を嫌でも聞かされるザイードからすると、たまったものではないらしい。


「それが済んだらお酒はどう?トレイナーの腕はグラントもお墨付きよ」

「彼女はトゥーリアン用の酒も作れるんですか?」

「そうみたい。タリも飲んでたから」

「ふむ…では後でいただきます」

『そう言って結局行かないんだよな』


掠れた笑い声でからかうザイードに鼻で笑って返すギャレスを見る限り、そのとおりかも知れない。

シェパードは計画に執心なギャレスにちょっかいをかけたくなった。


「じゃあ…ついでに見て欲しいところがあるんだけど、いい?ギャレス」

「もちろんですよ。家主の頼みですからね」


シェパードが彼の手を引いて連れて行ったのは小さなトレーニングルームだった。

アンダーソン大佐が譲ってくれた部屋には、こんな場所も用意されているのだ。

中央に置かれたサンドバックを撫でながらシェパードが面白半分に問う。


「このサンドバッグなんかどう?」

「サンドバッグですか…確かに侵入したクローンが叩いてみるかも知れない」

『あるいは人が入っていないか調べるために撃つかだな』


思いのほか真剣に考えるふたりが可笑しくて、笑いそうになる。

それをなんとか抑え、シェパードも真剣に聞くふりをしたが、別室からタリが呼ぶ声が聞こえてきた。

声を聞いただけでわかる程、かなり酔っているようだ。


「ごめん、行かなきゃ。あとはお任せするわ」

「任せてください、シェパード」

「…あぁ、それとギャレス」

「なんですか?」


かかったとばかりに背伸びをして、振り向いたギャレスの口めがけて唇を押し付ける。


「ほどほどにね」

「…ええ、わかっています」

「貴方の戦闘知識じゃなくて、リーチの長さなら存分に発揮してくれてもいいのだけれど」

「それは…パーティの後が楽しみですね」


トゥーリアンという種族は表情筋が乏しいので、顔から感情を読み取るのは難しい。

それでも彼女は彼を驚かせてやったとわかり、したり顔で部屋を出ていった。


『だからせめて通信を切ってからやってくれよ…』


何が起こったかわかったらしく、無線からザイードのため息が漏れた。











診断で出たお題が「隠れてキスをするギャレシェパ」だったので。

動画を見ながら書いたので集中できてなくて、いつもより文章がガタガタしている気が…(といいつつ直さない)

"彼のリーチの長さと彼女のしなやかさ"という、分かる人にしかわからないこの言い回しが大好きです。