※捏造ED後の話です!
要は「カタリストはすんごい兵器で、シェパードはリーパーを見事殲滅できた!それだけ!添加物なし!」な、ハッピーエンドMODを基にしたEDのその後です。
病室は静寂に包まれていた。
シタデルを見下ろせる大きな窓から差し込む人工の光が、シェパードの顔を照らす。
その瞼は閉じられており、穏やかな寝顔は死んでいるようにも見える。
鼻にかかった一房の前髪を、ジャヴィックの指が整えた。
彼はずっと、シェパードが眠るベッドのそばで座っていた。
一言も発せずに、病院が開けられた朝から。
彼女がこの病院に運び込まれ、面会が許可された数日前からずっとだ。
彼女に何が起こったのかは、彼が彼女の次によく知っている。
ほとんど瀕死の状態でシタデルへ到達し、イルーシヴマンと対立し、アンダーソン大佐と穏やかな別れを終えた。
そしてシタデルのアームを開き、クルーシブルを起動させ、この銀河を支配しつつあった地獄を終わらせたのだ。
体が限界を迎えた彼女はそこで気を失ってしまったが、彼女を信じたジョーカーがノルマンディーでシタデルへ向かった。
敵の本拠地の中心へ突っ込んだものだから、船はそれなりのダメージを負うことになったが、彼女を救い出すことに成功したのだ。
シェパードがシタデルにいる頃、かの地へ到達する前に負傷してしまったジャヴィックはやむなく撤退させられ、ノルマンディーで治療を受けていた。
そこで、EDIがシェパードの救出に成功したと言うのだから、彼が医務室を飛び出さないわけはなかった。
クルー達によって慎重に運ばれる彼女は、今まで見たことの無い重傷を負っていて、ジャヴィックは5万年ぶりに大きな動揺を覚えた。
今、ベッドの上で眠る彼女の傷は、包帯が外せない状態でありながらもほとんど塞がっている。
体内に施されたインプラントは補修され、心拍数、脳波共に正常、呼吸も問題ない。
残るは意識だけ。
ジャヴィックは、時々彼女の頬に触れてその意識を探る。
彼がシタデルでの事を知っているのは、その時に遺伝子のバイオマーカーを読んだからだ。
再び彼が頬に触れ、目を閉じたと同じ頃。
病室に客が現れた。
ジャヴィックはチラとそちらを見てまた目を閉じる。
リアラは静かに歩み寄って、シェパードを見つめた。
「意識は…」
「変わりない」
「そうですか…」
リアラは目を伏せて椅子を引き、腰を下ろした。
「貴方は?しっかり朝食はとりましたか?」
「…ああ」
彼女はシェパードのことは勿論だが、ずっと付き添っているジャヴィックの事も心配していた。
リアラには銀河で最大級の情報ブローカー、シャドーブローカーとしての仕事があるため、面会に訪れたのはクルーに許可が出てから3日経った頃だった。
ジャヴィックが病室にいたことにも驚いたが、聞けば3日間何も食べずにいたと言うからさらに驚いた。
目覚めたシェパードにそんな情けない状態を晒すつもりかと叱ったら、意外と素直に聞いてくれたのは記憶に新しい。
リーパーとの戦いを終えたら、リアラと共にプロセアンの旅をテーマにした本を書くと言ってくれたジャヴィックだが、ほとんど一日中シェパードを見つめている彼を知ってしまっては、リアラはとても旅に誘う気分にはなれなかった。
それに、最後のプロセアンに加えて銀河の英雄が同行してくれたらもっと面白い旅になりそうだし、本が売れそうである。
実のところは彼がどこかの星で無礼を働いた場合に備えて、場をなだめられる人がもう一人欲しいということもあった。
「そういえば、お前は少佐に好意を寄せたことがあるようだな」
「!」
じっと集中してシェパードの意識を探る彼から突拍子もないことを言われて、リアラは思わず椅子から落ちそうになった。
確かに、サレンというトゥーリアンを追っていた頃、親身になって話を聞いてくれるシェパードにリアラは想いを寄せたことがあった。
「やんわりと断られてしまいましたけどね…」
「知っている」
「でしょうね」
どさくさに紛れて変なことを探らないでほしいとリアラは思った。
個人の経験や気持ちを、触れるだけで読めるプロセアンにとっては、プライバシーなどあってないようなものなのである。
「お前は何をもって自覚した?何故少佐に告白しようと思った?」
「うーん…それは…もしかして不快なのですか?」
「いや、そうじゃない。何故そんな確信が持てたのか聞きたかった」
そうは言われても、もうあの時のように純粋無垢で若い気持ちではないし(年はまだまだ若いけれど!)、彼女のことはこの上なく尊敬していて大好きだが、諦めはついているのだ。
リアラは返答に困った。
「シェパードにもっと近付きたいと…彼女の特別になりたくなったから、でしょうか」
「それで、なれなかった」
「人の失敗を口に出すのはやめてください。それにそんな質問をするなんて…あなた方プロセアンは恋愛をしないのでしょう?」
「ああ、しない。…と思っていた」
「思っていた?」
「本当はわからなかった。私が生まれた時には、そんなものを考えられる余裕もなかった」
「そうですか…」
では、今は?とリアラが問う直前、ジャヴィックが目を開けて立ち上がった。
そして病室の外へ向かってしまう。
「ど、どうしたんです?」
「もう行く。騒がしくなるぞ」
「もう行くって……」
それだけ言って本当に病院を出てしまったらしいジャヴィックに、リアラは唖然とした。
あんなに熱心に彼女を見守っていたのに、まるで興味をなくしたように…
とリアラがシェパードに向き直ると、しばし無言のまま視線が交差した。
「…リアラ?」
「シェパード!!」